【いま観るべき】陶芸家・木ノ戸久仁子個展《依代》が凄かった話
こんにちは。美術作家の大槻香奈です。今日は陶芸の話になります。
先日、東京・南青山のギャラリー白白庵(ぱくぱくあん)で開催中の、陶芸家・木ノ戸久仁子さんの個展を観て参りました。これがとにかく素晴らしかったので今日はご紹介したいと思います。
陶芸で「石」を作る
陶芸家の木ノ戸久仁子さんはおおよそ30年近く、陶芸で石を作り続けておられます。「え、石を作るってどういうこと?!」と誰もが思うでしょう。私は木ノ戸さんと出会って10年になりますが、それでも毎回こんな風に紹介するたびにワクワクします。作品には『稀晶石』(きしょうせき)という名前が付けられています。
以前木ノ戸さんは、自身の作品のことを、何万年先の未来人に向けたメッセージだと仰っていました。人間の手で作られた石を未来人が掘り起こしたとき、「昔の人間は何を考えてこれを作ったのか?」と想像して貰えると考えたようです。
今回の個展では、石というよりかは岩に近い大きなスケールのものや、茶盌(ちゃわん)や酒器、壺など、多様な形態の作品を観ることができました。器の形態を成しているものであっても、作品の本質は石だということがわかります。

木ノ戸久仁子《依代》個展会場の様子(写真提供:白白庵)
言葉を変えれば「石が器になっている」と呼ぶべき佇まいになっていて、作品によっては傾いた状態でも石のようにある角度でピタッと止まる(置く)ことが出来たりもします。斜めで静止した器を眺めていると、その様子が愛らしくて思わず笑ってしまいます。
それはなんだか、ひとつの生きた「存在」に触れているような感覚で、作品と鑑賞者である私が自然と関係性を持つことが出来てしまうところに、私は作者の祈りを受け取ったような気がしました。
そもそも何かの"素材"になるはずの「石」を、陶芸の手法を通していちから作ってしまう木ノ戸さん。それはどこか、言葉の生まれる前の何かを作っているようでもあり、世界の始まりに関与するような行為と思います。現代において、ひとつの世界をいちから作る気概に溢れた作家が、いま何を見据えて生きているのか?作品を通して知りたいという気持ちがありました。
「世界を作るのに自分が必要」
そうして観ていく中で、特に圧巻だったのは『稀晶石 ミネラロイド』という作品。同タイトルの付いた、いくつかの作品のひとつに私は心奪われてしまいました。

木ノ戸久仁子『稀晶石 ミネラロイド』(写真提供:白白庵)
サイズ感もとても大きく(35kgほどあるとか?)、不思議な立体が集まることで石になっている様子でしたが、よく見ればそれは"ぬいぐるみ"の形をした集合体であることがわかります。
ギャラリーにて話を伺うと、実際にぬいぐるみを使っての焼き物作品とのことでした。これが本当に見たことのない、人の創りしファンタジックな世界でありながら大自然の中に根ざしているような佇まいで… 石とぬいぐるみの意味するところ、 "超現実的"と"超個人的"なものが、この世界を構成する原初であると実感できる、壮大な芸術になっていました。

木ノ戸久仁子『稀晶石 ミネラロイド』作品部分(写真提供:白白庵)
本個展のタイトルは《依代》で、まさにそこに神が宿ることを予感させます。『稀晶石 ミネラロイド』は芸術の頂点を感じさせる、まだ空っぽなままの美しい容れ物、力強い未来を感じさせる素晴らしい"うつわ"的な作品でした。そこには圧倒的な「人間と夢の肯定」があります。
我々が存在していることそのものへ眼差しを向けること、その重要性を示唆します。木ノ戸作品の見据えた未来は、混沌の中でも私達お互いの「存在」を見失わずにいられるような、人間同士をもっと信じ合えるものにするビジョンではないかと思います。現代の不安を吹き飛ばし、遠い世界まで届くことを確信させるような、渾身の力作でした。
ふと、在廊中の木ノ戸さんが語った「世界を作るのに自分が必要」という言葉に、私は胸を打たれました。この言葉は木ノ戸さんご自身だけでなく、鑑賞者ひとりひとり(あなた)に向けられている言葉として、作品から深く響いてきたのです。

木ノ戸久仁子『稀晶石壺』(写真提供:白白庵)
また、"陶芸"の仕事としても、木ノ戸作品にしか叶えられない釉薬の凄技が随所にあり、世界的な芸術更新の意欲が感じられるものでした。そういった面においても、必見の展覧会です。
近年、現代芸術においてこんなにワクワクすることがあるだろうかというぐらいに、超充実の作品群でした。言葉の生まれる前の、何にも支配されない強さが私たちの中にあることを、木ノ戸久仁子の芸術が教えてくれているようです。
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会期は9月21日まで(木曜休み)、この素晴らしい機会にぜひ足を運んでみてほしいと願います。
※本会期、同会場3階にて大槻香奈の絵画作品もご覧になれます。(木ノ戸久仁子個展は1階となります)
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